石嶋設計室

子どもの建築について

保育園との出会い

石嶋さん、保育園の設計できる?内装だけだけど。

私が属している墨田区の異業種交流グループ「NOVA’90」の1人から仕事を紹介された。事務所に勤めていた頃から続きで幕張ベイタウンの仕事ばかりだったボクにとって初めてのまったくフリーの仕事。もちろん保育園を設計したことはなかったけど「どうにかなるでしょ」と思い、独立して間もないボクは飛びついた。

正形な保育室(用途変更)

最初の保育園(六町駅前保育園)は、既存の4階建アパート1階を東京都認証保育所へ用途変更。100m2弱のハコに定員30人弱を確保するプロジェクト。

保育室は子ども1人あたりの面積が決まっていて、調理室や子どもトイレなど必要諸室を確保して、さらには開園後の定員変更に柔軟に対応できるフレキシブルな間取りにして、東京都のユニバーサルデザイン条例への適合など…。実際に手を動かしてみると、できることはそれほど多くなかった。

その中で見いだしたテーマは、必要諸室をできるだけコンパクトにまとめて配置し、大きな正形の保育室を確保することだった。

自然素材

子どもたちが日頃生活をしている住宅は、戸建・マンション・アパートを問わず、プラスチックやビニルクロス、木目を印刷した合板など、工業製品でつくられていることが一般的である。

1日の1/3を過ごす保育園では、本物の良さを感じて欲しい、また子どもたちを化学物質から解放してあげたい、との願いから、内装は自然素材をふんだんに使用した空間とすることを念頭において設計している。

記憶に残る保育園

現在40歳のボクが、子どもの頃を思い出してみると、

・大きな袋を持って田んぼを駆けめぐり、大量のイナゴを捕ったこと
・平地林の奥に廃材を持ち込んで基地をつくって、いろんな「宝物」を隠したこと
・よっちゃんいかをエサにザリガニを釣っていたら用水路に落ちたこと
・神社の境内の下に潜り込んで頭をぶつけてタンコブができたこと など…

相当曖昧な記憶の中にも、いくつかの鮮明に残っているものがある。

現代でも、

・遊具がある程度の感覚を保って整然と並び、フェンスが巡らされた砂場など、安全や衛生に重きをおいて整備された公園
・車の通行を重視しすぎたあまり歩道のど真ん中に電柱が立っているアスファルトの道路 など…

記憶に残る場所はあるとかもしれないけれど、日本全国一定の基準に沿って、安全性を重視されているため、どこに行っても同じような景色になりがちである。

子どもが大きくなった時に「あの保育園の○○は△△だったな」と、鮮明な記憶に残るような保育園をつくりたいと心がけている。プロジェクトの内容によってできることはさまざまだが、ひとつでも子どもたちの「記憶に残るモノ」を用意したいと思う。

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砂場のある中庭(ひなた保育園)

砂場のある中庭(ひなた保育園

巨木を伐採せずにつくった東大駒場むくのき保育園

巨木を伐採せずにつくった東大駒場むくのき保育園

中庭の巨木は四季の移り変わりを教えてくれる先生

中庭の巨木は四季の移り変わりを教えてくれる先生

自然は先生

計画地にそもそも存在していた自然は積極的に採り入れた設計を心がけている。自然は子どもにとって格好の遊び道具であると同時に、四季の移り変わりや時間の感覚、自然のプロセスなどを教えてくれる「先生」でもある。

このもうひとりの「先生」を重視して、建築自身に取り込んで独自に存在を主張するのではなく、自然と一体となったときに自身も輝く建築を目指している。

安全性・防犯性

子どもたちの安全性の確保や、防犯性は何より重要であるといっても過言ではない。

まずは、見通しを確保しながら、どう領域性を出すかを重点的に考える。外部空間や吹抜や腰高の家具などで「くびれ」をつくり、見渡せながらも何となく間仕切れている曖昧な仕切り方を多様する。これは、不慮の事故や不審者の侵入などへの対応を重視したものである。

ひなた保育園では、派遣会社の事務所や2階の共用会議室からも中庭や吹抜を通じて保育所内が見渡すことができて、保育士のみならず、派遣会社のスタッフや求職者に至るまで、この建物に関わるすべての大人が子どもの安全確保に関与できるようにした。

ディテール

まず子ども目線に下げて考える。出隅は通常の建築よりは大きく丸い面をとっている。家具の扉の下端とか巾木とか大人の目線では気がつかなくても子どもには危険。

建具はできるだけ引戸を使う。面積に余裕がなく開戸にせざるを得ないときには保育室側には開かないようにする。さらに、建具の中に小窓を設けて向こう側が見えるようにしたりもしている。指詰め防止のゴムを取り付けるなどの配慮も必要。

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腰高の家具と廊下のガラスで保育室内が見渡せる(グローバルキッズ板橋園)

腰高の家具と廊下のガラスで保育室内が見渡せる(グローバルキッズ板橋園

壁・天井が真っ白のトイボックスつつじヶ丘園 width=

壁・天井が真っ白のトイボックスつつじヶ丘園

内装の色彩

「石嶋さんの設計した保育園の内装はさっぱりしているよね」ってちょくちょく言われる。確かに内装は生成か白っぽい壁・天井と、木の色の床という構成が多い。さらに腰壁はスプルスなどナチュラル系のムク材をよく使う。

理由は、壁には子どもたちが一生懸命描いた絵や、季節ごとに変わる壁面飾りが所狭しと貼られ、床には色とりどりのおもちゃや絵本が転がる。ボクは建築は引き立て側に廻るべきと考えている。美術館の内装とでも言えばよいだろうか。建築でビビットな色がたくさん使われていると、飾りや絵やおもちゃとケンカしてしまうので、必然的に白っぽくてナチュラルな色味になる。

外観

街を歩いていると「一目で保育園か幼稚園」と分かる建物によく出くわす。総じて、おとぎ話に出てくるようなデザインをしていたり、壁面にキャラクターが描かれていたり、赤・青・黄など…ビビットな色を外壁に無造作に使ったりしている。

しかし、保育園や幼稚園も街を構成するひとつの建物である。テーマパークの中ならば、お城や基地のような建物をつくっても問題ないが、一般の建物の外観は道路空間を構成する公共物である。たとえ保育園や幼稚園であっても周辺の街並景観にそぐうデザインとすべきであると考える。

2009.06 石嶋寿和