石嶋設計室では幼稚園や保育園など、これまで数多くの子ども施設の建築に携わってきました。園にはそれぞれの保育理念があり、それらにマッチした園づくりを基本としますが、子ども施設の建築において私たちが普段から考えている8つの基本的な姿勢があります。

子ども施設の建築について

1. 豊かな「原風景」をつくる

幼い頃に見た景色や体験は深く脳裏に刻まれ、大人になってからもしばしば思い出されます。これは「原風景」と呼ばれ、人格形成、価値観、哲学にも影響を与えると言われています。

豊かな「原風景」は、空間・自然・人・地域社会などとのさまざまな体験を通じてつくられます。私が子どもの頃は空き地や路地がその場でしたが、現代の禁止事項ばかりの窮屈な公園や、車が主役の道路ではその荷は重く、園のみがその場になり得るのではないでしょうか。

私たちは、子どもたちに豊かな場を提供し、大人なってからも「原風景」として思い出してもらえるような園づくりをいたします。

2. 子どもが主役の園をつくる

待機児童解消のためたくさんの保育所がつくられていますが、その多くは、子どもが主役の園ではなく、明らかに大人が主役である園と見受けられます。

大人が主役の園とは、大人が保育しやすい園、すなわち子どもを管理しやすい園です。このような園の多くは、子どもの意志が尊重されず、大人が活動内容をすべて決定し、全員が一斉に活動するよう促します。確かに保育はしやすいですが、その結果として、子どもは意志を示さなくなり、保育士からの指示を待つようになり、最終的にはやる気がなくなるという悪循環におちいります。

私たちは、子どもが自由に行動を選択し、そこから生きるための力を身につけ、多様な人とのかかわりから社会性を育み、「豊かに生きる力」にを身につけることができるような子どもが主役の園づくりをいたします。

3. 「子どもの街」をつくる

子どもが一日の大半を過ごし、生活やコミュニケーションの基礎を身につける場である園は「家」に例えられることが多いですが、多くのの子どもたちが集う園はより豊かな体験が実現できる場、多様な要素の集合体である「街」として捉えることもできます。

「街」にはさまざまな性格を持った空間があります。園においても均一な空間とするのではなく、広い部屋や狭い部屋、明るい部屋や暗い部屋、勉強する部屋やごっこ遊びの部屋、開いた庭や囲われた庭、廊下、秘密基地など、「街」が持つ多様な空間は子どもたちに驚きと発見の場となります。

また園は、それぞれの家庭の習慣を身につけた年齢の異なる子どもたちが一堂に会し、家族から離れて初めて共同生活をする場でもあります。年少児は年長児を見て学び、憧れ、挑戦する気持ちを育み、年長児は年少児のお世話をすることで自信を持ち、譲る心や我慢を覚え、子どもたちは互いに成長します。

遊戯室、ランチコーナー、廊下、玄関等、異年齢の子どもたちが接する場所では、子どもたちが互いを意識した活動がしやすい環境を備えた園づくりをいたします。

4. 地域に開かれた園をつくる

都会にある園の固有の問題として、子どものプライバシーの確保や不審者対策、また子どもが発する声や音に対するクレームにより、地域に対して閉鎖的になりがちです。しかし今後は、園が地域における重要な役割を担う施設になっていくと私たちは考えています。地域との関わりは子どもの社会性を育むために大切ですが、同時に地域に開かれているからこそ地域住民からの目が行き届く、より安全な場所となりえるからです。

また少子高齢化社会が進み、近隣にも多くの高齢者が居住しています。子どもたちの元気に遊ぶ姿を周辺からも垣間見えるようにすることは、近隣の高齢者にとって生きる活力の源になります。園の運営や行事に地域住民が積極的に関与できるようにすることで、地域の伝統や子育ての知恵の継承も進み、多世代間の交流を深めるには最適な場となるはずです。

東日本大震災以降、防災の観点からも地域との関わりは重要です。避難訓練や交通教室等を通じて、消防署や警察署とも日常的に連携をとっているため、地域の防災・防犯拠点としての役割を担いやすい場でもあるのです。

5. 発達を促す園をつくる

私たちが子どもの頃に比べ、子どもの基礎体力が低下していると言われています。特に都心では園庭がない園も多く、過剰とも言える安全性の確保やバリアフリーの徹底によって園内には段差が一切ないフラットな園となっていることが一因だと考えます。 また都心の子どもの多くは共同住宅に住んでおり、駅や店舗等を含めてどこにでもエレベータやエスカレータが完備されているため、階段の上り下りをする機会が極端に少ないです。

さらにフラットな園での生活は、人間が本来持っている危機回避能力を低下させることにもつながると考えます。園内は安全であっても、園から一歩外に出れば街には危険がたくさん潜んでいます。道路には坂道もあれば段差もあります。歩道のない道路で目の前を自動車が通過することもあります。

私たちは、園内に様々な仕掛けやバリアを魅力的に盛り込むことで、自然に子どもたちの心身の発達が促されるような園づくりをいたします。

6. 本物の木でつくる

構造を木造にしなくても、フローリング、木製建具、家具等、建築には木が多く使われます。しかし実際には本物の木が使われることは少なく、その多くは「木目」の柄が印刷された建材で、本物の木を見かけることはほとんどありません。これらの建材は傷がつきづらく安定した材料ですが、その反面一度傷がついてしまえば補修がしづらいという欠点があります。

一方本物の木は、時が経つにつれ、伸縮、狂い、汚れ、ひび、割れ等、「様々な問題」が発生するため、敬遠されることも多いですが、この本物の木がもつ「様々な問題」が子どもたちに「物を大切にする心」を身につけることにつながっていると考えます。雑に扱えば傷がつき壊れることもありますが、大切に扱えば長く使えて、多少の狂いが生じても修理することでまた元通りになります。

私たちは、園を単なる保育を行うためのハコではなく、園そのものがもう一人の先生となると考え、子どもたちの成長に寄与する装置となる園づくりを行います。

7. 街並み景観にマッチする外観をつくる

街を歩いていると一目で園と分かる建物によく出会います。おとぎ話に出てくるようなデザインをしていたり、壁面にキャラクターが描かれていたり、ビビットな原色を外壁に用いています。

外観は街並み景観を構成するひとつの要素であり、園であっても何らかの呼応が必要と考えます。
私たちは園としての機能は十分備えつつも、街並み景観にマッチした外観を持つ園づくり行います。

8. 引き立て役にまわる内装をつくる

子ども向けだからと、色柄やキャラクターが描かれた内装を多様している園をよく見かけます。しかし保育室内には、子どもの持ち物、絵本やおもちゃ、子どもたちの作品、先生の季節の飾り付けなど、たくさんの色柄があふれています。建築の内装にまで色柄等を用いるとこれらとケンカしてしまいます。

私たちは園内における主役はこれら子どもたちが作り触れられるものであって、建築の内装は美術館のように引き立て役にまわるべきだと考えています。特に保育室は意図的に用いるアクセントカラーを除き、白色やベージュ、あるいは木の自然の色で構成した園づくりを行います。