下町情緒豊かな街に溶け込む現代の寺子屋

まちのてらこや保育園(竣工:2020年4月)

まちのてらこや保育園_1階保育室

「まちのみんなが先生で、まち全体が保育園」という理念を建築で支える

 弊社から徒歩2分ほどの場所に位置する認可外保育所を、認可保育所へ移行する計画です。

 豊かな下町情緒が残り、人と人とのつながりが今なお色濃く息づく日本橋人形町。この地域に根差した「まちのみんなが先生で、まち全体が保育園」という園の理念のもと、地域の人々とともに子どもを育む保育が実践されてきました。

 私たちは、この理念を建築として支えるため、人形町の街並みや「寺子屋」のイメージを現代の保育空間として再構築することを目指しました。認可保育所として求められる安全性や機能性を確保しながら、和の意匠を随所に取り入れた空間を計画しています。

保育を止めない認可移行と段階的な施工計画

 認可外保育所を運営しながら内装を全面的につくりかえ、認可保育所へ移行するためには、設計・施工の両面で多くの工夫が求められました。

 幸い保育室が1階と2階の2層構成となっていたため、まずは2階の既存の保育室で通常どおり保育を継続しながら1階部分の工事を実施し、1階の完成後に子どもたちが新しい保育室へ移動し、その後2階の改修工事を行う段階的な施工計画としました。

 各工事段階においても、建築基準法や消防法、保育所設置基準などの関係法令に適合する必要がありました。保育室の採光・換気・排煙や避難経路の確保、定員に応じた保育室面積を満たすなど、工事途中の状態を含めて認可保育所として必要な条件を満たすよう、綿密な計画を行いました。

 保育を止めることなく認可移行を実現したことは、本計画における大きな特徴のひとつです。

人形町の記憶を受け継ぐ「現代の寺子屋」

 外観では、地域のランドマークとして長年親しまれてきた大きな黄色いのれんを継承しました。認可移行後も街に親しまれてきた園の記憶を受け継ぎ、地域との連続性を大切にしています。

 内装では、認可保育所として求められる安全性や機能性を確保しながら、「まちのてらこや」という園名にふさわしい和の空間づくりを追求しました。

 市松模様の格子天井には、和紙を思わせるアクリル板で覆われたLED照明を組み込み、寺子屋の行灯を連想させる柔らかな光環境を実現しています。また、麻の葉文様の欄間やタイル、出隅のコーナーガードを兼ねた付け柱など、日本の伝統的な意匠を現代的に再解釈し、空間全体に散りばめました。

 エントランスには瓦の小庇となまこ壁を設え、地元で調達した切長型提灯をサインとして掲げています。まるで人形町の路地に佇む小さな店先のような佇まいが、毎日子どもたちを迎え入れます。

子どもたちの好奇心を育む仕掛け

 寺子屋は学びの場であると同時に、人が集い、遊び、成長する場でもありました。本計画では、その精神を現代の保育環境へと継承しています。

 壁一面に設けた絵本棚は、この園を象徴する存在です。表紙が見える面展示とすることで、子どもたちが日常の中で自然に本と出会い、自ら手を伸ばしたくなる環境をつくりました。

 また、調理室をのぞくことができる窓は、食への興味や関心を育むきっかけとなります。さらに、カラフルな屋内階段やボルダリングウォールなど、限られたビルイン空間の中にも、子どもたちの好奇心や冒険心を刺激する仕掛けを随所に散りばめています。

限られた条件の中で実現した豊かな保育環境

 認可外保育所を運営しながらの認可移行という難しい条件の中で、私たちは安全性や機能性を確保するとともに、園が大切にする保育の考え方を建築として形にすることを目指しました。

 人形町の街並みや文化を想起させる和の意匠と、子どもたちの豊かな体験を支える保育環境を両立することで、「まちのみんなが先生で、まち全体が保育園」という想いを支える現代の寺子屋が誕生しました。

私たちが大切にしていること

 私たちは、園舎を保育を行うための単なるハコではなく、子どもたちの成長を支える「もう一人の保育士」だと考えています。だからこそ、それぞれの園が大切にする保育理念や教育方針を丁寧に読み解き、建築として形にすることを大切にしています。

2階保育室

2階保育室(3〜5歳児室)

1階保育室(1〜2歳児室)

トイレ

腰見切のディテール

玄関ホール

屋内階段

絵本棚

のれん(撮影:黒住直臣)

建築主 株式会社サムライウーマン
計画地 東京都中央区
用途 認可保育所
延床面積 214.14m2
定員 30人
所在階 地下1階〜地上2階
受賞 第15回キッズデザイン賞 優秀賞(消費者担当大臣賞)
掲載 近代建築2021年8月号

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