災害復旧を未来につなげる園舎改修
2019年10月の台風19号によって、園舎は床上浸水の被害を受けました。幸い躯体と2階部分は大きな被害を免れたものの、1階の内装や設備機器は全面的な改修が必要な状況でした。
私たちが初めて訪れたのは被災から半月後のことです。そのような状況の中で園長先生からいただいた言葉は、「この機会に、現在行っている保育に適応した園舎にしたい。」という、とても前向きなものでした。私たちは、この改修を単なる原状復旧ではなく、子ども主体の保育を実現するためのプロジェクトとして捉えました。
子ども主体の保育を支える大きな保育室
子ども主体の保育において重要なことは、子どもたちが自ら活動を選び、友だちと関わりながら生活できる環境です。
そのため、これまで各年齢2〜3室に分かれていた保育室を、年齢ごとに1つの大きな保育室へ再編しました。大きなワンルームの空間の中に活動コーナーを点在させることで、子どもたちはその日の興味や関心に応じて活動を選択します。写真からも分かるように、空間そのものが子どもたちの主体的な活動を支えています。
活動量を高める子どもの秘密基地
保育室や子育て支援室には、天井の低い秘密基地を設けました。
子どもは床、壁、天井、人など、空間を構成する要素を認知できると活動量が高まるという園長先生の知見に基づいた計画です。実際に開園後の様子を見ると、子どもたちは秘密基地の中を自由に行き来し、驚くほど活発に遊んでいました。
私たちがこれまで「落ち着く場所」として計画してきた低い空間が、「活動を促す場所」にもなることを教えていただいた、大変学びの多いプロジェクトでした。
異年齢の交流を育む十字型ホール
園舎中央を貫く十字型のホールは、この園舎を象徴する空間です。
連続する球形ペンダント照明、天窓からの自然光、そして突き当たりに設けた赤いアーチ型のニッチによって、建築的な軸線を強調しました。
十字の交点には「ひろば」を設け、異年齢の子どもたちが自然に出会い、交流する園内の社交場として計画しています。
両側に並ぶ大きな棚には子どもたちの荷物や作品が並び、日々の生活そのものが園舎の風景をつくり出します。
地域に開かれた子育て支援室
併設する子育て支援室は、地域の親子が気軽に立ち寄ることのできる場所として、園舎とは別に外部から直接出入りできる計画としました。
室内は保育室とは対照的に、スケルトン天井や植栽を取り入れたカフェのような空間とし、子育て中の保護者がほっと一息つける落ち着いた空間を目指しました。
また、本格的な厨房機器を設置することで、親子への食事提供やイベント、子育て相談会など、多様な活動に対応できる地域の交流拠点として計画しています。
室内には子どもたちが安心して遊べるコーナーや、天井の低い秘密基地を設けています。保護者がゆったりと過ごす傍らで、子どもたちは思い思いに遊び、親子がそれぞれの距離感で心地よく過ごせる環境をつくりました。
私たちは、「子育て支援」とは子どもだけを支えるものではなく、保護者や地域を含めて支えるものだと考えています。人と人とのつながりを育み、安心して子育てができる環境をつくることも、園舎に求められる大切な役割のひとつです。
食への興味を育む調理室の見える化
調理室については、既存躯体や設備配管の制約から大きなレイアウト変更は難しい状況でしたが、調理室前に「食育の窓」を設けることで、子どもたちが日々の調理風景を身近に感じられる環境を整えました。
窓の向こうでは、野菜を切る音、湯気の立ちのぼる様子、鍋をかき混ぜる姿など、給食ができあがっていく過程が目の前で繰り広げられます。特にガスコンロを使った調理風景は迫力があり、子どもたちは自然と窓辺に集まり、興味深そうに眺めていました。
私たちは、食育とは単に食べることを学ぶだけではなく、「どのようにつくられているのか」「誰がつくってくれているのか」を知ることから始まると考えています。毎日見慣れた給食も、調理の様子が見えることで、つくり手への感謝や食への興味へとつながっていきます。
私たちが大切にしていること
私たちは、災害復旧とは単に元に戻すことではないと考えています。
失われた環境を回復するだけでなく、子どもたちの未来を見据え、より良い保育環境へ進化させることこそ建築の役割です。今回の改修では、園長先生が目指す「子ども主体の保育」を建築としてかたちにすることで、子どもたちが主体的に学び、遊び、成長できる園舎を実現しました。
| 建築主 | 認定こども園さくら |
|---|---|
| 計画地 | 栃木県栃木市 |
| 用途 | 認定こども園 |
| 定員 | 315人 |
| 延床面積 | 1,945.68m2(改修面積:1,689.10m2) |
| 建築面積 | 1,594.49m2 |








