2019年10月12日に発生した台風19号によって、同園の隣を流れる永野川の堤防が決壊し、床上浸水の被害を受けました。幸い躯体と2階は被害を逃れたられたものの、1階の内装や設備機器は全て水浸しとなり、改修することとなりました。
私たちが最初に訪問したのは被災から半月後、園の関係者の努力で泥はかき出され、一見きれいになっていましたが、二重床の下地が露出し、壁のビニルクロスはめくれ上がり、一部には泥水の後が生々しく残されていました。
初めてお会いした時、園長先生から「この機会に現在行っている保育に適応した園舎にしたい」と極めて前向きな夢を語っていただきました。
具体的には、
- 子ども主体の保育を行うため、複数に分かれていた保育室を年齢ごとに1つにする
- 保育室や子育て支援室に天井の低い子どもの秘密基地をつくる
- 子育て支援室の充実
- 十字型のホール(廊下)を異年齢の子どもが行き交うスペースとする
- 調理風景の見える化と厨房機器のリニューアル
等です。
私たちにとって災害復旧の改修設計は初めてのことでしたが、これまで培ってきたビルインやリノベーション園舎での設計監理の経験を活かし、園長先生の夢をかなえるとともに短期間で設計を行いました。
排水の位置を大きく変えることはできませんので、大きな間取りの変更は不可能でしたが、その制約の中でも間仕切壁の位置を変更して園内の間取りを再構成しました。子ども主体の保育を行うためには人との交わりが重要であるとの理念も元、これまで各年齢2,3室に分かれていた保育室を1つの大きな部屋にしました。
また工期短縮を重視して既製品の木製建具や普及品の仕上材を中心に構成しましたが、保育室ごとに異なるアクセントカラーの壁や照明デザインの変化で保育室ごとの特徴を生み出しました。
併設する子育て支援室は、外部から直接出入りできるようにしました。デザインは保育室とは大きくスケルトン天井のカフェ風のデザインとし、大人の空間として設えました。子育て支援室内に給湯室を設けることで、子育て中の親子への食事の提供や様々なイベントの開催にも対応可能な多目的なスペースにしました。
子どもは床・壁・天井・人など、部屋を構成する要素をすべて認知できると活動量があがるという園長先生の知見に基づき、保育室や子育て支援室には、天井の低い秘密基地を設けました。
開園後に見学する機会があり観察してみると、確かに秘密基地内では子どもたちは自由に動き回り活発に遊んでいました。私たちもこれまで天井の低いスペースをたくさんつくってきましたが、その理由を、押入の中で遊ぶのが楽しかった子どもの頃の記憶や、子どもが落ち着くスペースづくりとして説明してきましたが、改めて勉強させていただきました。
園舎の中央を貫く十字型のホールは壁や柱の位置を整えるとともに、連続する大きなペンダント照明や、赤いアーチ型のニッチを玄関の突き当たりに設えることで、これまで以上に軸線を強調したつくりとしました。十字の結節点には、スペースを広げた「ひろば」を設け、子どもたちが自由に行き交う子どもの社交場として設えました。さらに両側には天井までの棚を用意して、子どもの手荷物や展示がホールに彩りを与えるようにしました。
調理室の見える化については、躯体に制限がありましたので、調理室前にステージをつくって食育の窓を設けました。ちょうどガスコンロを見えるようにしましたので、子どもたちは火を用いた迫力のある調理風景を堪能できると思います。同時にこれまでウェット仕様だった調理室をドライ化し、定員に対応した最新の厨房機器を適切にレイアウトしました。
建築主 | 認定こども園さくら |
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計画地 | 栃木県栃木市 |
用途 | 認定こども園 |
定員 | 315人 |
延床面積 | 1,945.68m2(改修面積:1,689.10m2) |
建築面積 | 1,594.49m2 |