園舎の子どものトイレについて想うこと
2022.09.15
子どもの発達において、排泄の自立はとても重要なことです。核家族化や共働き家庭が多数を占める現在、子どもの排泄の自立に対する保育園や認定こども園の役割は重要であると言えます。
したがって、保育園、幼稚園、認定こども園等の園舎を設計する際は、トイレと保育室や遊戯室との関係をどうするかについてまず考えます。またトイレ内についても、動線、レイアウト、使い勝手、広さ、子どもたちが進んでトイレに行きたくなるデザイン等、気を遣うことを挙げれば枚挙に暇がありません。
このコラムでは、私たちがつくってきた園舎のトイレの事例と、トイレを設計する際に注意していることをご紹介いたします。
目次
0,1歳児のトイレ・沐浴室
0,1歳児が使う沐浴室を兼ねたトイレです。発達には個人差がありますので、年齢で区分することはできませんが、0,1歳児はおむつをしてますので、おむつ交換台の上や、床にマットを敷いておむつ交換をします。
写真1は、手前にはオリジナルのおむつ交換台、奥には1槽の沐浴台、通路をはさんで反対側には壁付きの汚物流しがあります。この3つの設備は、おむつを交換して→汚物を流す(→お尻を洗う)、一連の動作ですので、まとめてレイアウトするようにしています。
また、おむつ交換台の上の窓は0歳児室に面しています。おむつ交換時には0歳児室から保育士が1人減ることになりますので、おむつ交換をしながらでも0歳児室の様子を眺めることができるようにしています。
なお、おむつ交換台の脇に横バーがついてますが、これは立っちができるようになった子どもが、パンツタイプのおむつを立ったまま交換する時の掴まり立ち用のバーです。決してタオル掛けではありません。
沐浴台には1槽のもの(写真2)と2槽のもの(写真3)がありますが、最近は1槽のものを主に使っています。
2槽は幅広ですし、2槽の使い分けがよく分かりません。メーカーのホームページのQ&Aによると「小さい予備槽にいったんお湯をため、温度を確かめてから本槽に入れるようにする」とのことですが、子どもの施設では給湯器の温度は常に40度程度に設定されていて熱湯が出ることはありませんので、実際にQ&Aのとおりに使われていることは少ないと思います。
おむつ交換台も様々なタイプを使い分けています。
写真4や写真1のように園の意見を聞いてオリジナルの家具としてつくる場合があります。写真4は上部にマットを敷き、右側の平場を残し、お尻ふきやおむつ等を置けるようにしてあります。また、下部に人数分のおむつ入れをつくるなど、自由な形状が可能です。
トイレの面積が小さい場合には折り畳み型のおむつ交換台を設置することもあります。ここで注意しなければならないのは赤ちゃんを乗せる向きです。写真5は縦型で赤ちゃんの頭を壁に向けて寝かせるタイプです。一方、写真6は赤ちゃんを壁と平行に寝かせるタイプです。赤ちゃんの足側には大人が立ちますので、スペースを確保する必要があります。
1,2歳児のトイレ
1,2歳児はまだ自分で排泄はできず保育士の介助が必要です。また、羞恥心がまだ芽生えてませんので、オープンで、広めにつくります。
子どもたちが初めてまたがる大便器は、前向きも後ろ向きも対応可能なタイプです。便座までの高さは約17cmで相当低いです。手すりを兼ねたゾウ型の紙巻き機は隣との仕切りの役目も担います。
男の子は2歳ぐらいから小便器を使い始めます。図1のように、リップ高さには歳児ごとに目安があります。
ちなみに身長が160cmの私は、海外のトイレでは常につま先立ちをして用を足し、不快な思いをしています。
3歳以上児のトイレ
3歳以上になると、大便器が少し大きくなります。高さは約27cmです。
子どもは3歳ぐらいから羞恥心が芽生えますので、大便器をブースで囲むようにします。しかし、子どもが中で倒れていたなんてことがあると大変ですので、ブースの高さは子どもの視線は遮るものの、保育士からは中が見え、万が一の時には助け出せるよう、1.2m程度の高さでつくることが多いです。
写真9は既製品の子ども用トイレブースです。オフィス等でよく見かけるトイレブースの高さが低い版です。カラフルだったり、○や△だったり、動物の形状をしていていたり、イラストが描いてあったり…。形状は様々です。
しかし、私はよほどのことがない限り既製品のブースを用いることはありません。大人のブースは約2mぐらいの高さですので天井と固定できますが、子どものブースの場合、天井まで1m以上空いてますので、天井とは固定できず、床から自立しています。したがって安定せず、閉めたときいくらか揺れつつ「ガシャーン」という大きな音をたてます。私はそれが嫌なので、頑丈な腰壁のブースをつくっています。その方がタイル、化粧板等、自由な仕上にできます。
写真10,12は、いつも私がつくっているトイレブースです。これまで様々なタイプをつくってきましたが、数年前からこの形状に落ち着きました。
当初は既製品(写真9)をまねて、外開き(写真13)でつくってましたが、「子どもはブースの外が見えないため、急に扉を開けると外にいる人と衝突してしまい危険」という指摘を東京都から受けました。そこで扉を常時開放の内開きにしてみました。これにより、ブースの外を行き来している人は安心して通過できるようになりました。さらに、使ってない時には扉が空いてますので、中が容易に確認でき、清潔にもなりました。しかし、扉が内側に開きますので、便器や子どもに扉が当たらないような奥行きが必要になりますので、トイレが大きくないと難しいですが…。
事例は多くありませんが、園によっては男女を分けることもあります。写真11は中央に壁を建て、男女を分けています。確かに小学校では男女別々のトイレですし、羞恥心が芽生えてきたらトイレを男女で分けるのは当然なのかもしれません。
余談になりますが、小さい子用の大便器も大きい子用の大便器も暖房便座があります。ウォシュレットはありませんけどね。
その他
その他、トイレで気にするところをご紹介します。
姿見
写真14はトイレ内に設置した姿見です。高さ1.2mですので子どものほぼ全身が映ります。保育室に近いトイレの出入口付近に設置することで、人前に出る前に身だしなみを整えることの重要性を子どもたちに学んでもらっています。もちろん鏡には裏から飛散防止フィルムを貼ってあります。
掃除用流しと二口水栓
写真15はトイレ内ではありませんが、子どもが入れない保育士専用室内にある掃除用流しと二口水栓です。右側の吐水パイプは水はねが少ない泡沫水栓になっていて、左側は一般的な吐水パイプです。そこに次亜塩素酸ナトリウム消毒液のボトルがホースでつながっています。左上の目盛りを調整することで、水で希釈された消毒液が蛇口から出てくる優れものです。しかし、写真にも「使用注意」とありますが、簡単に消毒液が出てきてしまいますので、逆に怖くて使えないという園もありました。一口でも二口でも水栓金物は金額の差はほとんどありませんので、希釈器をつけられるように二口にしています。泡沫水栓ではホースもつながりませんので。ちなみにこの希釈装置ですが、ピューラックスの定期購入の契約をすると、無料でレンタルしてくれるそうです。
暖房便座用の抜け防止コンセント
写真16は暖房便座用の抜け防止コンセントです。通常、子どもがいる場所のコンセントは子どもの手が届かないように床から1.5mの高さにつけるのがセオリーなんですが、電源コードが暖房便座までぶら下がっているのも危険なので、コンセントに工夫が必要です。シャッター付コンセントすることもありますが、ここではひねらないと抜けないコンセントを使用しました。
シャワー
続いてシャワーです。体重が重くなった子がおもらしをしてしまった場合や夏に汗をかいた時等にシャワーは使われます。写真17のような子ども専用のシャワーパンがありますが、私はほとんど使用せず、写真18,19のような一般的なユニットシャワーを使用します。ユニットシャワーには0808タイプ(平面が80cm×80cm)と0812タイプ(80cm×1.2m)のものがありますが、できるだけ0812タイプを使うようにしています。0808タイプですと、子どもを中に入れて扉を開けたまま、保育士が介助することになりますが、0812タイプですと子どもと保育士が一緒にシャワー内に入れます。ドアを閉めれば外へ水はねしませんし、湯気も出ません。扉のロックもできますので、子どもが入り込むこともありません。さらにシャワーパンよりも安価と来れば、どちらが良いか…。言わずもがなです。
汚物流しのフタ
最後に汚物流しのフタです。
私がよく使う壁付けの汚物流しには既製品のフタがありませんので、各工事業者が自ら考え自作することになります。私は細かく仕様を指定してませんので、現場ごとに創意工夫をこらし様々なタイプのフタが出てきます。そのうちこれを見るのが楽しくなり、数年前から写真におさめるようになりました。
東京都では「汚物流しにはフタを設置する」という設置基準があります。私は最初、汚物流しの中は汚いので子どもが手を入れないようにフタをつけるものと勘違いしていて、同じく汚い掃除流しにもフタをつけていました(写真20)。しかし、理由を聞いてみたところ、汚物流しには常に水が溜まっているので、子どもが落ちて溺死しないようにフタをすると言うことでした。
集成材のフタ(写真20)は重いので、子どもたちが容易に持ち上げることができないためオススメですが、その一方で女性保育士が片手で持ち上げるのは厳しいです。また「汚物流しを利用する際、フタの置場に困る」という指摘が某区からありましたので、固定式で折れるフタをつくってみました(写真24,25)。今でもうまく使えているのか心配ですが…。
あと、意外と忘れがちなのが、汚物流しのハンドルが本体から20cmぐらい脇に出っ張ってくることです。設置スペースに余裕がないと写真20や23のように、ハンドルを中央に寄せてくるようなおさめ方もします。
終わりに
ここまで紹介してきたことは、私が多くの子ども施設を設計監理してきて培った「我流のノウハウ」です。園それぞれでトイレに対する考え方は異なると思いますので、必ずしも正解であるとは限りません。あくまで、子どものトイレをつくる際のアイデアのひとつとして受け取ってもらえれば幸いです。
投稿者プロフィール
石嶋寿和(いしじまひさかず)
東京都渋谷区生まれ、茨城県古河市(旧猿島郡総和町)出身。
曽根幸一・環境設計研究所を経て2004年に独立し、個人事務所として石嶋設計室を設立。2006年には株式会社石嶋設計室に改組。 独立後もスタッフ時代に担当していた都市デザインの仕事を続けていたが、たまたま90㎡の保育所の内装設計を依頼され、現在までに新築、改修を問わず、200園以上の子ども施設の建築に携わる。
現在では、子ども施設の建築を通じて培ったノウハウを生かし、幅広く新しい建物を生み出している。